| ハワイのマウナケア山頂にある「すばる望遠鏡」で "Search for Cold Disk beyond 50 AU from the Sun" というプロポーザルの観測を行ってきました。 以下はその記録です。 |
1. プロポーザルのメンバーに加わる
2001年の11月、今回のプロポーザルの責任者 ( PI ) である木下大輔君から、TNO サーベイのプロポーザルの共同研究者に加わりませんかとお誘いを受けました。
過去にも木曽のシュミットでのサーベイもお手伝いした経験もあり、プロポーザルのメンバーとなって位置観測に関するアドバイスやデータ解析のお手伝いをすることとなったのです。
すばるの観測データは18ヵ月するとデータアーカイブとして他の研究者に公開されます ( 世界的には12ヶ月で公開されるのが一般的なので、すばるの観測者はちょっぴり過保護になっています ) 。それまでの期間はプロポーザルのメンバーが優先利用できるのです。
これで私もアーカイブではない最新のすばるデータを堂々と解析することができるのです! (感激)
2. たなぼたでハワイに行く
このプロポーザルは国立天文台を中心とする研究者と ESO の太陽系研究者がメンバーとなっています。すばるの観測で山頂に登れるのは、一つのプロポーザルで3名と決まっているため、私が登る可能性は始めからないものと思っていたのでした。
さて、すばる観測所から4月に2夜、5月に1夜、観測日が割り当てられました。
4月の観測チームの人選が始まったところ、ESO のメンバーは「忙しい」、「旅費がない」等の理由から全滅となったのです。このため、4月は日本人だけで行くことになりました。
ところが国内の研究者も4月は忙しい人が多くてハワイに行く人が不足しました。このため、私にチャンスが巡ってきたのです(^^)
私は都庁に務める地方公務員なので、すばる観測のための旅費の支給を受けられません ( 国内の研究機関に所属する研究者と大学院生だけが旅費を受けられるのです ) 。しかたがないので、格安航空券の HIS で、成田−ホノルル、国内線のホノルル−ヒロの往復航空券を8万円ほどで手に入れました ( 私達は金曜出発なので割高になってしまいました )。
3. 今回の観測の目的
海王星の外側を回る小惑星は既に500個ほど見つかっています。これらはエッジワーズ・カイパーベルト天体とか TNO ( Trans Neptunian Objects ) などと呼ばれています。冥王星は現在ではこれらの天体に分類されるようになっています。
ところが、世界中の大望遠鏡により TNO がこれだけ多く発見されているのに、50AU を超えるような遠方の天体が見つかっていないのです。このような天体を見つけようというのが、今回のすばるプロポーザルの目的です。
実は軌道が長い楕円 ( 離心率 e が大きい ) を描いていて、遠日点では太陽から数百AU も離れる天体がいくつも発見されていますが、これらは一番太陽に接近する時は 海王星の内側まで入ることから、かつて海王星の近くを回っていた天体が大惑星の引力の影響を受けて、長い楕円軌道に変えられてしまったものと推測されます。これらの天体は Scattered Disk Object と呼ばれ、円に近い軌道を描く TNO と区別しています。
これに対して、海王星のずっと外側の50AU 以遠をほぼ円軌道を描いている TNO があったとすると、それらの天体は太陽の影響を受けにくく、原始太陽系の姿をそのまま残していると推測され、太陽系形成の謎を解き開かす絶好の対象となるはずです。
これら50AU 以遠の天体は太陽系形成から今までの間、ずっと力学的に不活発 ( cold ) であり、空間的に非常に薄い円盤上に集まっていると思われます。この "cold disk" をすばるを使って探そうというのが、今回のプロポーザルの目的なのです。
4. 苛酷なマウナケアの環境
4000m を超えるマウナケア山頂は思ったより苛酷な環境でした。山頂はまったく草木の生えていない荒れ地で、生物が活動すべき場所ではないというのが率直な感想です。
まず、山頂に到着して感じたことは、指先がしびれることです。これは推測ですが、指先の毛細血管中の血中の酸素球が膨張し、血流が悪化することが原因と考えられます。
次に思考力が極端に低下して、頭がぼーとしてきます。また、気圧が 620 HP くらいしかないので、息苦しく、大きく深呼吸をくりかえすと少しは楽になる感じがします。
高山病防止に水をたくさん飲むのが良いと聞いていたので、ボトルのミネラルウォーターをどんどん飲んでいたのですが、胃が消化不良を起こして、飲んだ水が胃に留まり、かえって気分が悪くなってしまいました。
2夜の観測のうち、1夜目は午前2時(現地時間)頃に我慢できずにハレポハクまで降ろしてもらいました。2夜目は3回も酸素吸入をしながら、なんとか朝まで頑張りました。1回の酸素吸入で2時間は元気でいられるような感じがします。オペレータも苦しくなると酸素吸入をしていたので、我慢せずに酸素を吸入した方が良さそうです。
2002年7月号の「星ナビ」に渡辺潤一さんが酸素吸入している写真が掲載されています。さすがに自分が苦しくて酸素吸入している様子をデジカメで撮影することはできませんでした。
もう少しすると、山麓にあるすばる観測所からリモートで観測することが可能となります。この場合でもオペレータは山頂まで登る必要がありますが、観測者の負担は大きく軽減されることになります。将来は三鷹でリモート観測ができる計画もありますが、実際に山頂に登った経験からは、真に必要な場合を除いて、基本的にはリモート観測の方が結果的に効率的であり、冷静な判断をしながら的確な観測を実施できるのではないかと思うのでした。