ライトカーブ観測の手引き


目 次

I ライトカーブ観測とは
 1 ライトカーブとは
 2 相対測光
 3 観測の概要
 4 lightcurve メーリングリスト

II 観測編
 1 必要なもの
  (1)望遠鏡
  (2)冷却CCDカメラ
  (3)測光フィルター
  (4)小惑星の情報
   ☆あると良いもの
 2 観測の実際
  (1)小惑星の撮像
  (2)フラットフレームの撮像


I ライトカーブ観測とは

1 ライトカーブとは

 小惑星は形状が球形でないため、自転によりその明るさが変化します。この変化の様子をグラフにしたものがライトカーブです。
 ライトカーブを取得すると小惑星の自転周期がわかります。また、小惑星の軌道上のいろいろな方向(位相)からライトカーブを観測することで、小惑星の自転軸の方向を決めることができます。
 小惑星のうち、ライトカーブから自転周期や自転軸の方向が正確にわかっているのは、全体のほんの一部にすぎません。小中口径の望遠鏡でもライトカーブ観測を行う価値のある小惑星はたくさんあるのです。
 さらに、すばる望遠鏡や ASTRO-F などの観測をサポートするためにライトカーブを取得する場合もあります。ビックサイエンスにアマチュアの小中口径の望遠鏡で貢献できる数少ないチャンスとも言えるでしょう。

2 相対測光

 小惑星のライトカーブ観測では、その小惑星の本当の明るさ(絶対等級)がわからなくとも、その周期とアンプリチュード(変光の幅)が求まれば十分です。このため、観測がとても難しい絶対測光ではなく、より簡単に行える相対測光で良いのです。
 相対測光とはCCDカメラの同一フレーム写った比較星(恒星)と小惑星の明るさ差を求める測光方法をいいます。
 まずは、簡単な相対測光から始めて、経験を積んでから絶対測光に挑戦してみるのも良いのではないでしょうか。

3 観測の概要

 ライトカーブの観測方法は、目的の小惑星を望遠鏡で追尾しながら、冷却CCDカメラで繰り返し画像を取得します。初めに小惑星を導入すれば、あとは冷却CCDカメラを連続撮像モードに設定するだけです。
 さらに、観測の前後どちらかでフラットフレームとダークフレームを取得します。また、理想的には一晩のうち何度か標準星を撮像しておくとが望ましいです。
 具体的な観測方法はこのあとで詳しく解説します。

4 lightcurve メーリングリスト

 小惑星のライトカーブ観測に必要な情報交換やさまざまな議論の場として、lightcurve メーリングリストを運用しています。ライトカーブに関心がある方ならどなたでも参加できます。メンバーにはプロの研究者も多く、活発な議論や共同研究を行っています。参加を希望される方はlightcurve@toybox.gr.jp へメールでご連絡ください。

II 観測編

1 必要なもの
 
(1)望遠鏡  どのくらいの口径の望遠鏡が必要かの目安として、筆者の口径36cm反射望遠鏡で約16等級の小惑 星まで、25cm反射望遠鏡で約15等級までの観測が可能です。もちろん、口径だ けではなく組み合わせる冷却CCDカメラや測光フィルターにも依存しますが、 アマチュアが所有するサイズの望遠鏡でもたくさんの小惑星が観測対象となります。
 赤道儀は、ドイツ式赤道儀では小惑星が南中する時に、鏡筒の向きを反転させる必要があるのに対し、フォーク式赤道儀ではその必要がなくライトカーブ観測向きと言えます。もちろん、観測する小惑星の向きによっては、ドイツ式赤道儀でもそのまま観測をつづけられる場合もあります。

(2)冷却CCDカメラ

 市販のモノクローム用冷却CCDカメラが必要です。また、アンチブ ルーミング機能がないもの、あるいは同機能をオフすることができる機種が必 要です。同一フレームに小惑星と複数の比較星(数個から10個程度)を写し 込む必要があることから、ある程度の広さの写野が必要です。目安として最低 でも 10'x10'、通常の使用では 20'x20'(いずれも単位は角度の分)程度の写野が欲 しいところです。 写野が狭い場合はあらかじめ星図により比較星を同一視野に入れられるかどうか調べてから観測を行うと良いでしょう。
 また冷却CCDカメラのA/D変換は16bitが必要です。それ以下の場合、測光精度が悪くなり、実用的ではありません。
 

(3)測光フィルター

 ライトカーブ観測には測光用フィルターが必要です。絶対測光を行うには測光用のBVRIの各フィルターを用意する必要がありますが、相対測光ではとりあえずRかIの一つを用意すれば十分です。一般論として、都会地や月明かりがある場合は I バンドが有利で、空の条件が良い場合はRバンドが有利です。具体的には組み合わせる冷却CCDカメラの感度特性に依存するので、実際に試してみるしかないでしょう。
 測光フィルターが用意できない場合は、写真用の R60 や R64 フィルターで代用することも可能です。また、暗い小惑星を観測するためにフィルターによる光量のロスを避けたい場合、ノーフィルターでの観測がどうしても必要となります。このような場合は、
ノーフィルター観測のページをご覧ください。

測光用フィルターの詳細については 測光用フィルターのページ をご覧ください。

(4)小惑星の情報

 観測対象とする小惑星の情報は以下の URL から得ることができます。

a 小惑星の予報位置

・Asteroid Ephemeris ASTEPH
 観測する小惑星の位置推算表が取得できます。次のものに比べて、こちらは操作がずっと簡単です。

・Ephemeris Generator
 上に比べてより詳しい情報が得られます。小惑星の高度や方位も表示されているため観測には便利でしょう。

b 観測用チャート

・Finder Chart for Asteroids ASTFINDER
 小惑星を中心としたチャートが得られます。チャートには小惑星の位置と移動方向、移動量が表示されるので冷却CCDカメラの画像を確認するのに便利です。ただし、星のプロットサイズが小さい上に常に20等近くまでプロットされるため若干チャートが見にくいので、次のチャートと併用すると良いでしょう。 サンプルチャート

・Finding Chart Program
 望遠鏡に小惑星を導入したり冷却CCDカメラの画像から小惑星や比較星を確認するのに便利なチャートです。チャートの範囲や限界等級は自由に指定でき、チャートの基になった星表のデータも取得できます。ただし、 操作は上に比べるとちょっと面倒です。

c ライトカーブパラメータ

・Minor Planet Lightcurve Parameters
 小惑星のライトカーブパラメータが掲載されています。ちょっと古いデータなのが残念です。データの見方は、登録番号、名前、自転周期、最小アンプリチュード(データがあるもののみ)、最大アンプリチュード、品質番号、掲載論文番号です。
 品質番号の意味は以下のとおり

4:自転軸がでるような観測(複数の位相からの観測)
3:複数の位相からの観測
2:単独の位相からの観測
1:1周期にもみたないような部分的な観測

※小惑星の移動経路の確認

 取得したチャートにより、小惑星の移動経路の近くに恒星がないことを確認します。もし恒星と重なると解析が大変なので、重なることが予想される場合はできるだけ観測を避けた方が賢明です。

☆あると良いもの

・オートガイダー  
 望遠鏡にガイドエラーがあると測光精度が落ちたり、限界等級が落ちてしまいます。ライトカーブ観測は長時間同じ小惑星を追尾し続けるため、観測の省力化のためにもオートガイダーがあると大変便利です。
 ただし、ガイドエラーで多少星像が流れても測光は可能なので、オートガイダーは必需品ということではありません。

2 観測の実際

(1)小惑星の撮像

a パソコンの時刻合わせ

 冷却CCDカメラの制御用パソコンの内部時計を、電話の時報等に より観測前に正確に(±1秒程度)合わせておきます。この時刻がライトカーブ の観測時刻のもととなるので、大変重要です。
 なお、電波時計の精度は良くないので使わないようにします。また、パソコンの内部時計の精度は悪いので、必ず1日に1回は時計を合わせるようにしましょう。
b 小惑星の導入
 観測用チャートなどを用いて、小惑星をCCDカメラのフレームに導入します。その際、小惑星と複数の比較星(数個から10個程度)が同一フレームに写っていることを確認します。短時間積分で撮像した画面を見ながら望遠鏡を微調整すると良いでしょう。
 なお、小惑星の移動量が大きい場合は、移動量を見込んで構図を決定します。

c 小惑星の高度

 少なくとも小惑星の高度が約20度以上(airmass 3以下)、理想的には約30度以上(airmass 2以下)で観測するようにします。あまり高度が低いと大気の影響が大きいため正確な測光ができません。
 airmass とは近似的に airmass = cos z / 1 で求まります。z は天頂距離です。

d 冷却温度

 ダークノイズを減らして精度の良い画像を得るためにCCDカメラの冷却温度は出来るだけ低くします。しかし、冷却CCDカメラの冷却能力を超えてしまい温度コントロール不能にならないよう、多少余裕を持った温度に設定することも必要です。

e 積分時間

 小惑星の画像がスカイレベルに比べて十分に高くなるよう積分します。具体的な積分時間は、望遠鏡と冷却CCDカメラ、測光フィルターの組み合わせによって異なるので、事前にテストすることをお勧めします。

f 積分間隔

 ライトカーブの時間分解能を上げるためには、短い積分間隔が必要です。特に周期が求められていない小惑星を観測する場合は、できるだけ短い間隔で積分を繰り返すのが良いでしょう。
 冷却CCDカメラに連続撮像モードがあれば、それを有効にして、繰り返し小惑星の撮像を続けます。

g ダークフレーム

 小惑星を撮像した時と同じ積分時間でダークフレームを取得します。普通は観測前や観測終了後にまとめて10フレーム程度取得します。だたし、電子冷却CCDカメラの中にはダークフレームが外気温の変化に大きく影響される場合もあるので、このような場合は観測前後にまとめて取得するのは避け、オブジェクトフレームを撮像する毎にダークフレームも取得した方が良いでしょう。ご自分の冷却CCDカメラのダークフレームを連続して取得して、その安定性を確認してみましょう。

g ファイル形式・ファイル名

 測光を他人に依頼する場合は、ファイル形式は FITS で保存してください。FITS ファイルの拡張子は ".fits" ですが、Windows(MS-DOS)形式で拡張子が3桁の制限がある場合は".fit"とします。

(2)フラットフレームの撮像
 ここではドームフラットの取得方法について解説します。ドームフラットは観測日ごとに取得するようにしてください。普通は観測前後どちらかにまとめて取得します。

※ フラットフレームの詳細についてはフラットフレームのページをご覧ください。

a 準備

 ドーム内に投影用のスクリーンを吊るして、ランプで照明します。ランプはスクリーンをできるだけ均質に照らすため、少なくとも左右に2灯とするなどの工夫が必要です。
 照明用の光源はRやIバンド用ならば白熱灯でもOKですが、明るさの変動が大きいのが欠点です。3波長形昼白色蛍光管ならばBVRの各バンドに感度が高く明るさの安定性も高いのでお勧めです。Iバンドに対してはあまり感度が高くないですが、少々長めの積分をかければ大丈夫です。ただし、明るさが安定するまで少し時間がかかるのが欠点です。

※ 3波長形昼白色蛍光管のテスト結果はドームフラットの光源のページをご覧ください。

b ドームフラットの撮像

 観測時に使用した測光フィルターを装着した状態のまま、望遠鏡をスクリーンに向け、カウント値がリニアリティーの範囲でできるだけ高くなるよう積分時間を調節して撮像します。つまり、画像の平均カウントが数万カウントになるようにします。積分時間を調整する際、CCDカメラのシャッタームラの影響を避けるために、1秒以下の短い積分は避けます。ドームフラットは10フレーム程度取得します。
 測光フィルターを複数使用した場合は、それぞれのフィルターごとにドームフラット及びダークフレームを取得する必要があります。

※リニアリティーの詳細はリニアリティーのページをご覧ください。

c ダークフレームの撮像

 ドームフラットを補正するためのダークフレームを10フレーム程度取得します。これはドームフラットを取得した時と同じ積分時間で撮像します。


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